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よろず屋の猫

『ZOO』 『失われる物語』 乙一

一冊読んで気に入ると、続けて同じ作家の過去の作品を読みたくなってしまいます。
アンソロジーで読んだ短編小説が気に入って、読み出した乙一、2冊の感想です。

短編小説集なので、気に入った、もしくは気になったものだけ。

『ZOO』

『カザリとヨーコ』
双子の姉妹なのに、母親はカザリを溺愛し、ヨーコは虐待する。
そのヨーコの一人称で書かれている。

知らないと言う事は、辛い状況をすごすものにとっては救いなのかも知れないと思った。
ヨーコは自分が置かれている立場がいかに異常であるかを知らず、当たり前だと思っているので、母親やカザリに対して悪意を持っていなかった。
ところがひょんな事から愛情を与えてくれる存在を知る。
すると母親やカザリに対する見方が変化していく。

どう見ても大変な状況に落ち込んでいるラストなのに、どうやっても生きていけるさ、「おーっしゃー!。」と思うヨーコが良い。


『陽だまりの詩』
終末の世界、彼に作られた私。
彼と過ごすことによって人間の感情に目覚めていく私。
彼は死を迎えようとしていた。

これは好き。
悲しいけれど、幸せな気持ちにもなれる小説だと思う。
ラスト、何となく『天空の城のラピュタ』の主人公達がラピュタを去る時に、滅んだ王国の城の庭を、いつものように定時に見て廻るロボットが見えるシーンがあるじゃないですか、あれを思い出しました。
同じような切なさがあります。

『ZOO』
表題作なので、一応。
毎朝、郵便受けに入る写真は、殺された恋人が日、一日と腐っていく様子を写したもの。
俺は犯人を何が何でもみつけてやると思う。
けれど本当は俺は犯人を知っている。
それは俺なのだ。

・・・と言う訳で、なかなか自首する踏ん切りがつかない俺が、周りと自分を誤魔化すために、日課として、犯人を捜すふりをし、殺害現場を突き止めたふりをし、写真を撮るわけです。
・・・と書くとコメディか?って感じもしますが、違います。
強迫衝動であるかのように行動する俺が、正直いって怖いです。
安らぎを得るラストを読んで、心に不安を抱えているよりも、罪を告白した方が全然マシ、と強く思いました。

『Seven Room』
YAMAFUSAさんの記事で紹介されていて、これが読みたくて『ZOO』を借りました。

窓もない小さなコンクリートの四角い部屋に閉じ込められた姉弟。
部屋を流れる排水溝を弟は伝って行き、部屋は7つあり、各部屋に同様に女性が閉じ込められている事を知る。
そして順番に殺されていき、開いた部屋にはまた新しい女性が入れられていく。
自分達が殺されるのは閉じ込められてから六日目の、午後6時。

一日ごとに姉弟の様子を書いていく構成。
自分達の置かれた状況に気付き、恐怖におびえ、しかし助かる手段を模索する。
恐い小説です。
ですが決してハッピーエンドと言い切れないラストの結果、特に高く劈くような叫び声を上げる姉に、それに恐怖が混じっていないとは思えないけれど、しかしやっぱり勝利の笑い声で、拍手喝采したい気分でした。




『失はれる物語』
全体として、これはちょっとヤダと思う作品も無いですし、後味が悪い話も、グロいシーンもないので、『ZOO』よりは読みやすい。
特に好きな2つだけ感想。

『Calling You』
私は携帯電話をもっていない、だから心の中で自分の携帯電話を作り上げている。
ある日、その電話が着信のメロディーを鳴らす。
そして知らない、同様に心の中に電話を持つ者と話(心の中で)をしていく。
相手の彼と実際に会うことになったが・・・。

話の展開はよくあるので、先は分ってしまいます。
でもそれでも読んでて良い気分になれる小説はあって、これもその1つです。
切ない思いを抱えながら、一生懸命に生きていくラストの主人公が良いです。

『幸せは子猫のかたち』
要領よく生きていけない僕は、一人暮らしを始める。
猫が住み着いているその家ではかつて女性が殺されていた。
しかし殺された事を実感できずにいる彼女の霊はこの家に残っており、二人と一匹の奇妙な生活が始まる。

ミステリー仕立ての一編。

とにかく僕と彼女と猫の生活が良いのですよ。
人生に対して後ろ向きで、自分はそんなものと思い切っている僕が、人生を楽しんでいる彼女と触れ合うことによって、心情的に変わっていきます。
ラストはやっぱり切ないけれど、僕の視線が上を向き、前を見つめているのが良い。




ところで“あとがき”にライトノベルついて書かれていた。
『失はれる物語』はライノベで発表したものを一般書の形式で作り直したもの。
で、作者にとってはこれはある種の敗北である、と書いている。
ライノベのままでは手にとってもらえない層がいると言う事が覆せなかったから。

今、『十二国記』を再読しててつくづく思うのだけれど、『十二国記』や『失はれる物語』のレベルの本が、全ライノベ出版数の半分位はあれば良いのにと思う。
ライノベは読みやすい。私は読みやすいと言うのは良いことだと思ってます。
わざと難解な言葉や漢字を使うよりも、誰が読んでも分りやすく楽しめる方がよっぽど良い、と思う。
この読みやすい文章で、感受性豊かな小説や、目を閉じれば浮かんでくるような素晴らしい世界観を持った小説があればどんなに良いだろうと、熱望する。
ライノベは本来、私のようなおばさんではなく、私の子供達の年齢層がターゲットだと思っているけれど、その子供達の為にも、心からそう思う。


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